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労働問題~使用者側の視点~

 

 

1.はじめに

 

以前、労働者側の視点からのブログを掲載しました。

労働者側の視点に立ったブログはこちら[リンク]

そこでは、不当解雇と未払賃金を中心として解説をしましたが、今回は、使用者側の視点に立った解説をしたいと思います。

 

 

2.民法と労働法との関係

 

 

民法上の原則論から始めますが、民法によれば、期間の定めのある雇用契約は、5年(商工業の見習いを目的とする場合は10年)を経過した後であれば、いつでも契約の解除をすることができます(民法626条)。

 

期間の定めがない場合は、いつでも解約の申し入れができ、2週間経過で雇用契約が終了になります(同法627条)。

 

なお、期間を定めた場合でも、やむを得ない事情があれば直ちに契約を解除することができます(同法628条)。

 

ただし、これらはあまりにも労働者保護に欠けることから、特別法で労働者の保護が図られています。

 

それが労働契約法や労働基準法などの労働法と呼ばれる法体系です。

 

 

3.労働法による解雇規制

 

 

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合は、解雇は無効(労働契約法16条)となります。

 

また、有期雇用の場合、一定の場合には、契約更新の申し込みを承諾したものとみなされますので(同法19条)、いわゆる雇止めが無効とされることもあり得るのです。

 

期間の定めのある労働契約の場合、「やむを得ない事由」がある場合でなければ、期間中に解雇することは認められません(同法17条)。

 

 

ところで、懲戒処分は、「懲戒することができる場合」(同法15条)でなければなりません。

 

この点につき、フジ興産事件で最高裁平成15年10月10日判決は、「懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。」としています。

 

したがって、懲戒処分としての解雇や減給等をするときは、就業規則に定めがあることが不可欠です。そのうえで、就業規則の定めが適切か否か、定めに照らして処分が相当であるかどうかが重要になります。

 

※なお、就業規則がどれほど重要かという点については別の記事にて解説します。

 

 

ちなみに、労働者が業務上負傷し、疾病にかかり療養のための休業期間中やその後30日間は解雇することが認められていません(労働基準法19条1項)。

同様に、産前産後の女性についても休業期間中やその後の30日間は解雇することは認められません(同条)。

これらの場合に、どうしても解雇しなければならないときは、打切補償(労働基準法81条)を支払うか、天変事変などにより事業の継続が不可能であるという事情及びそれについて行政官庁の認定が必要となります(労働基準法19条1項但書)。

 

 

このように使用者が労働者を解雇等する場合は、相当の制約があり、これによって労働者の保護が図られているのです。

 

 

 

3.解雇等をするとき

 

 

解雇するときには30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(いわゆる解雇予告手当)を支払えばいいんでしょう、とお考えの方もおられるかもしれません。

 

しかしそんな簡単にはいきません。

 

上記は解雇が「有効」とされる場合でもそのようにしなければならない、という趣旨であり、そもそも解雇が無効であれば、30日前までに予告していようと30日分の賃金を払っていても、無効なものは無効です。

 

不当解雇であるとして裁判を起こされた場合、使用者側として、解雇することが客観的合理的理由があるということを積極的に主張立証していかなければなりません。

 

そのためには、①弁明を聞くなどの手続を履践しているか、②過去の勤務態度や懲戒処分歴の有無内容、③解雇以外の方法によって解決できるか否か等について、慎重に検討しておくことが重要です。

 

勤労態度が不真面目であることを理由として解雇する場合には、解雇という判断に至った経過がとても重要です。

これまでの間に何度も問題行動があったのであれば、その時点で、弁明を聞いたうえで始末書をきちんと取っておくということが当職の経験上特に重要です。

 

いままでこういうことがあった、ああいうこともあったと裁判になってから証拠も乏しい状態で主張だけしても、当該事実を認定してもらえるかはわかりませんし、仮に認定してもらえたとしてもそれによって懲戒解雇処分まですることは重過ぎると認定される可能性もあります。

 

会社だけでなく職場の秩序維持にとっても、問題行動については「なあなあ」にするのではなく始末書をきちんと書かせ、客観的な証拠として保全しておくことが企業防衛に繋がります。

 

 

4.整理解雇について

 

 

新型コロナウイルスによる業績の著しい悪化などで解雇された人が増えているという報道が増えてきたように思います。

 

報道から受けた印象では、有期雇用者(なお「非正規雇用」という呼び方は嫌いです。)の解雇が目立っているように感じました。

期間中の解雇をする場合には「やむを得ない事由」が必要ですが、雇用調整助成金[リンク]や緊急雇用安定助成金[リンク]等の支援策がある中で「やむを得ない事由」が認められるかは事案ごとに検討する必要があると思います。

何となくですが、新型コロナウイルスの影響といっておけば許されるような風潮になってしまっているように感じ、危惧感を抱いています。

 

特に、業績悪化を理由として、突然「解雇します」というような解雇はよほどの事情が無い限り、まず認められません。

 

 

さて、話を戻しますと、業績悪化などで人員を削減する解雇は一般に整理解雇と呼ばれています。

 

新型コロナウイルスの影響による業績悪化を理由とする解雇も、整理解雇に分類できるでしょう。

 

整理解雇については多数の有名な判例があり、整理解雇が有効と認められるには、次のような要件が必要と指摘されています。

 

東洋酸素事件(東京高裁昭和54年10月29日判決)

 

① 企業運営上の必要性

② 配転による剰員吸収措置

③ 人選の客観性合理性

 

山田紡績事件(名古屋高裁平成18年1月17日判決)

 

① 人員削減の必要性

② 解雇回避措置の履践

③ 選定基準の合理性

※以上はいずれも使用者側が証明責任を負うことも判示。

 

上記に加え、

④ 事前に使用者が解雇される者へ説明・協議を尽くしていること

も必要になります。

 

これらの要件が充たされていることを使用者側が証明する必要があるわけです。

①人員削減の必要性は収支の見通しについて過去の業績や資産状況等から証明する必要があるでしょう。

②解雇回避措置については具体的にどのようなことをしてきたのか、その成果はどうだったのかが重要になります。

③選定基準の合理性については、まずどのような基準が合理的なのかを検討する必要がありますし、その基準に該当する労働者が複数いる場合になぜその労働者を整理解雇の対象としたのか具体的に説明する必要があるでしょう。

④の事前協議を尽くしているかどうかを証明するために議事録のようなものを作成しておくことも重要です。突然解雇します、といっても事前協議がまったくなければ有効な解雇とはまず認められないでしょう。

 

このように、整理解雇をする場合には前もって十分に検討を重ねておくことが重要です。

ただでさえ業績が悪化している中で、不当解雇だとして訴訟などを提起されれば、より一層業績に影響を与え、それが致命傷となって倒産に至るなどといこうことが無いように慎重に慎重を期すべきであろうと思います。

 

 

 

5.おわりに

 

 

近年急速に、労働者が権利を主張しやすい、またはせざるを得ない社会になってきているように感じます。

 

いいかどうかは別として、会社に在籍し続ける価値と、労働者が使用者側に反発することによって生じ得る不利益とのバランスが、ここ数年、十数年で変わり始めたのではないかと感じます。

 

そのような社会であるからこそ、労働者やその家族の生活の基盤である勤務先は、今後より一層企業防衛を考えていかなければならないのかもしれません。

 

解雇された労働者は、今後は、会社にとって取引相手になったり消費者になり得るのです。

 

企業防衛は、どのような紛争が生じるであろうか、生じた場合にはどのような解決ができるであろうか、というように「法的紛争」に詳しい知見を持っていることが重要です。

 

特に重要だと考えるのは、使用者側としては、労働者との間の法的紛争を使用者側から起こすにしても、労働者側から起こされるかもしれない行動をとるにしても、未払賃金の請求を受ける可能性も視野にいれておく必要があるということです。

 

実際、使用者が労働者を訴えた案件で、当職が労働者側(被告側)の代理人についたのですが、逆に未払賃金の請求を提起したことによって、被告側に極めて有利な和解が成立したものがあります。

この案件は、使用者が労働者を訴えなければ被告が当職に依頼することもありませんでしたから、未払賃金の請求を受けることもなかったでしょう。

 

労働者との紛争は様々な事情をトータルで考える必要があり、予防するにしても、紛争が発生しかかっているにしても、既に発生しているにしても、労働問題に詳しい弁護士に相談することが企業価値を高めることにつながると考えています。

 

 

労働問題の相談時にあったほうがいい書類

 

・労働者の履歴書

・雇用条件通知書又は雇用契約書

・就業規則

・決算書(整理解雇等業績が重要な事案)

・労働者作成の日報や始末書等

・賃金台帳(給与明細書)

・解雇予告通知書(すでにしている場合)

・離職票の写し(すでにある場合)

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