和解・示談のメリットデメリット
何らかのトラブルがあった際に、解決方法としてはいくつか存在します。
今回はその中でも和解・示談をテーマに取り上げます。
和解とは
「和解」とは、「当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約する」ことをいいます(民法695条)。
① 「当事者間に争いがあること」
② 「当事者が互いに譲歩すること」
③ ②により①の争いをやめること
これが要件となります。
和解が成立するとどうなるかというと、民法に規定があります。
少し長いですが引用します。
「当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。」(民法696条)
要するに、権利があるのかないのか争いになっていても和解すると、後でその権利があったことが確認されても和解により消滅したものとされ、あるいは、後でその権利がなかったことが確認されても和解により権利が移転したものとされるのです。
これを和解の「確定効」といいます。
つまり和解をすると、後になって紛争を蒸し返すことはできないということです。
一方、「示談」という言葉は一般的によく耳にしますが民法上の言葉ではありません。
示談も、紛争の解決手段という意味では和解の一種といえるかもしれませんが、必ずしも民法上の和解と同じかどうかは内容によるのです。
例えば、「和解」は互いに譲歩することが必要ですが、「示談」の場合に互いに譲歩しているとは限りません。
では、和解をした後に、すべての場合に紛争を蒸し返すことができなくなるでしょうか。
先の記載からするとそうなりそうですが、例外もあります。
和解と錯誤
例えば、和解の前提事実が真実であると誤信していたからであるような場合、前提事実に錯誤(勘違い)があったとして、和解契約が錯誤により無効(民法改正後は錯誤取消)とされた事例があります(最判昭和33年6月14日民集12・9・1492)。
和解の対象
また、交通事故の示談などで、示談当時には把握することができなかった後遺障害の存在が和解後に判明したような場合、後遺障害に関する損害賠償請求権については和解の対象にはなりません(最判昭和43年3月15日民集22・3・587参照)。
このように和解によってすべての事案について将来にわたり一切不服を申し立てることができなくなるとも限らないのです。
しかし、一般的には一度和解してしまうと再度不服を申し立てることは相当困難ですから、和解(示談)をする場合はまずは弁護士に相談された方がよろしいかと思います。
これは離婚に伴う財産分与の調停や裁判上の和解などについても同じことがいえます。
メリット
それでは和解で解決することのメリットはどのような点でしょうか。
メリットその1~早期解決
まずは判決を求めるよりも早期解決になるという点があげられます。
裁判で判決を取得するためには、相手方が徹底的に争っているときは証拠を綿密に積み上げたり、尋問を実施したりする必要があり、判決まで相当の時間を要します。
また尋問は裁判所で証言台の前で過去の事実などをいろいろ聞かれることになり相当のストレスを感じる方が多くおられました。
一方、和解であれば双方が納得すれば解決となりますので判決を取得するよりも短期間での解決を目指すことができますし、尋問のストレスもありません。
メリットその2~任意の履行
また、和解であれば判決よりも任意の履行を期待できるという点があります。
和解で解決しない場合、判決等による強制執行で権利を実現することになります。しかし強制執行をするにも費用がかかりますし、何よりも相手の財産にあたりをつける必要があります。
相手の財産が一切不明の場合、強制執行をすることは相当困難です。
(この点については財産開示請求が広く認められるようになったため、困難さはある程度緩やかになりましたがそれでもまだまだ困難さはあります。詳しくはこちらの記事をご覧ください[リンク])
しかし和解で解決した場合、相手方も一応は納得して合意に至っているので、任意に義務を履行してくれることが期待できます。
必ず履行してくれるかはともかく徹底的に争う相手よりは期待できるという意味です。
なお、裁判上の和解の場合、和解調書が作成されますがその調書は判決と同様の効力を持ちます。
つまり和解で解決して相手が任意に支払ってこない場合、和解調書を使って強制執行することができるのです。
メリットその3~円満解決
さらに、和解で解決したということは互いに譲歩したということで、その後の関係性も、判決を取得するよりも円満な状態に戻りやすいという点があります。
メリットその4~柔軟解決
その他にも、判決よりも柔軟な解決方法が認められるというメリットがあります。
例えば、名誉を棄損されたとして訴訟になっている場合、判決であれば謝罪文を掲示させることはなかなか難しく、慰謝料の請求が認められる程度で終わってしまうことが多くあります。
他方、和解であれば慰謝料の支払いと併せて謝罪文の掲示も相手方が了承する限り認められますから柔軟な解決が可能となります。
この他にも例えば建物の明け渡しを求めている場合、判決であれば即退去命令の判決となる場合が多いですが、すぐに退去してもらうよりも一定期間は猶予してその後に退去してもらったほうが現実的な場合があります。
このような場合にも和解であれば退去までの期間を猶予するなどして柔軟な解決を図ることができます。
このように和解には様々なメリットがありますが、紛争を最終的かつ抜本的に解決させるものであるため、弁護士と相談しながら和解による解決が妥当であるかを慎重に検討する必要があります。
デメリット
次にデメリットですが、先に述べたように紛争を蒸し返すことができなくなりますので、後になってこんなはずではなかったと思ったとしても受け入れるしかありません。
よくあるご相談としては、弁護士に依頼せずに本人自身で離婚調停を行い極めて不利な条件で調停を成立させてしまった、とか交通事故の示談で保険会社に言われるまま示談してしまったという事案です。
また、和解は「互いに譲歩」することが要件ですから、判決であれば請求している金額の満額の支払命令が出るとしても、和解であれば多少減額することが一般的です。
そのため、判決の見通しと和解による減額とを比較し、回収可能性等を考えたうえで判断する必要があります。
さらに、和解内容によっては税務問題が絡んできてしまうこともあります。
未払賃金を請求した場合で、和解が成立して一定額の支払いがなされたとしても、それは賃金が後払いされたものであるとして所得税等の課税をされることがあります。
また何かを贈与する和解をした場合に、受け取った側に贈与税の負担が生ずる場合もあります。
このように和解で解決できたと思っても、別の問題が発生してしまい、当初考えていた状態とは異なる状態になってしまうこともあり得ます。
課税関係は判決であっても和解であっても同様ではあるのですが、和解の文言次第では異なる解決方法となり得る場合もあり、注意が必要です。
いずれにしても、和解をするかどうかは、ご自身の権利義務をきちんと理解し、和解のメリットデメリットを考慮のうえ行うべきです。
これらについてのご相談はお気軽にお電話かメールにてお問合せください。